NEXAVAR®(Sorafenib)のついて 新板橋クリニック Version 2009.6
1. 概説 POINT ●VEGF受容体を阻害する作用があります。 ●KIT蛋白の働きを阻害する作用があります。 ●マルチキナーゼ阻害剤です。
Nexavar®は、腫瘍細胞が活発に増殖するのに必要な「増殖信号」が、細胞の外部から内部に伝わらないようにする薬剤です。腫瘍細胞の表面には、増殖信号を受け取る「受容体」と呼ばれる受け皿があり、増殖信号が受容体に入ると、受容体から細胞の内部まで増殖信号が伝わっていきます。受容体から細胞内部まで増殖信号が伝わる時には、チロシンキナーゼ(tyrosine kinase)と呼ばれる物質が必要であり、Nexavar®はチロシンキナーゼの働きを邪魔することで、増殖信号が細胞の内部まで伝わらないようにします。また、腫瘍細胞周囲の血管新生を抑制することで、がんの増殖を抑えます。
Nexavar®は、「細胞増殖」・「血管新生」・「腫瘍細胞の浸潤・転移」に関わる受容体のチロシンキナーゼを邪魔する(阻害する)薬剤です。Nexavar®で阻害される受容体は、細胞内RAFキナーゼ、VEGFR-2、VEGFR-3、FGFR-1、PDGFR-b、KIT、FLT-3です。
2. 血液中の動態
Nexavar®は錠剤です。服薬すると血中濃度が最高に達するのは、約3時間後になります。血液中では、主として(99%以上)アルブミンと結合しており、肝臓のcytochrome P450 (CYP3A4)とUGT1A9で分解・代謝されます。Nexavar®の代謝産物の約77%は糞便中から排出され、約19%が尿中から排出されます。Nexavar®を服薬すると、半減期は25から48時間です。高脂肪食の摂取と同時にNexavar®を服用すると吸収が約30%低下するので、脂肪食の後の服用は避けるべきです。 腎機能低下のある患者では、Nexavar®の代謝がどの程度影響を受けるかどうかのデータは今のところありません。Child-Pugh AあるいはBの患者では、Nexavar®は減量の必要はありません。Child-Pugh Cの患者では、Nexavar®の代謝がどの程度影響を受けるかどうかのデータは今のところありません。
CYP3A4の働きを抑制する薬剤(CYP3A4 Inhibitors)と一緒にNexavar®を投与する時は、Nexavar®の血中濃度が上昇する可能性があるため、薬剤を減量あるいは、投与期間を短縮する必要があります。一方、CYP3A4の働きを亢進させる薬剤(CYP3A4 Inducers)と一緒にNexavar®を投与する時は、Nexavar ®の血中濃度が減少する可能性があるため、薬剤の増量あるいは投与期間を延長する必要があります。
3. 投与方法
Oral: 400 mg twice daily Nexavar®は1錠200 mgの錠剤です。朝と夕方の2回服用します。食前の1時間前あるいは食後2時間(空腹時)したら服用します。
4. 治療効果
A Metastatic Renal Cell Carcinoma (MRCC):転移性腎細胞癌 POINT ●1次治療でのNexavarの有効性は明らかでありません。 ●1次治療(1st lien)が無効であった腎細胞がんに、2次治療としてNexavarを投与すると生存期間の延長が期待できる
初回治療(1st lien)
標準治療であるIFN-aと比較してNexavarの有効性は明らかでありません。
2次治療(2nd line)
(1) 2005 ASCO meeting (Study 1) サイトカイン療法(Interferon-α、Interleukin-2あるいはInterferon-αとInterleukin-2の併用療法)で腫瘍増悪が認められた769例のMRCCの患者を対象に、Nexavar®あるいはプラセボ(偽薬)が投与されました。腫瘍増悪を抑制する期間(RFS)は、Nexavar®を服用した患者384例では24週間、プラセボを服用した患者385例では12週間で、Nexavar®を服用することで、腫瘍増悪を抑制する期間が約2倍に延長することがわかりました。Nexavar®を服用した患者で、腫瘍が縮小(PR)したのは2%で、70%以上では腫瘍の大きさは安定状態(SD)でした。
(2) NEJM 356:125 study 1でプラセボが投与された患者では、腫瘍増悪が認められた後、Nexavar®が投与されました。最終的に903例の患者が登録されNexavar®を服用した患者は451例、プラセボを服用した患者は452例(200例以上の患者は腫瘍が像悪した後Nexavar®を服用しました)でした。無増悪生存期間の中央値は、Nexavar®を服用した患者で5.5ヶ月、プラセボを服用した患者では2.8ヶ月でした。Nexavar®は有意に腫瘍が増悪するまでの期間を延長することがわかりました。生存期間の中央値(median OS)は、Nexavar®を服用した患者で17.8ヶ月、プラセボを服用した患者では15.2ヶ月でした(ハザード比0.88)。Nexavar®は、死亡リスクを12%低下させることがわかりましたが、有意な差が認められませんでした。これはプラセボを服用した患者452例のうち、200例以上が腫瘍増大の後Nexavar®を服用しているためと考えられます。
B Hepatocellular carcinoma (HCC):肝細胞がん POINT ●奏功率は数%です。 ●無増悪生存期間と全生存期間の延長が期待できます。 ●アジア人あるいは西洋人を対象とした臨床試験でNexavarの効果が証明されました
(1) EORTC-NCI-AACR syumposium (2006) 肝機能がChild-Pugh AあるいはBの肝細胞がん(HCC)の患者27例を対象にNexavar®が投与されました。25例の患者で解析が行われ、1例(4%)で部分緩寛、21例(84%)で安定状態、3例でがんが進行しました。平均無増悪期間(median PFS)は4.9ヶ月、平均生存期間(median OS)は15.6ヶ月でした。
(2) phase II trial: JCO 24, 4293 Child AあるいはBの肝機能である、137例の肝細胞がん(HCC)の患者を対象に、Nexavar®が投与されました。137例は化学療法が未施行であり手術不能な状態でした。1日800 mgのNexavarが投与され、3例でがんの縮小を認め、46例(34%)に安定状態が認められました。腫瘍増悪までの期間(median TTP)は5.5ヶ月、平均生存期間(median OS)は9.2ヶ月でした。
(3) SHARP試験: NEJM 359,378 進行肝細胞癌患者にSorafenibを投与すると、プラセボ群と比較して生存期間を延長させるかどうかを調べる、無作為化第III相臨床試験(SHARP試験)の結果がASCO 2007で報告されました。 SHARP試験は602人のChild Aの未治療の進行肝細胞癌患者を対象に実施されました。Sorafenib投与群(299人)とプラセボ投与群(303人)に分けられ、Sorafenib群には1日800 mgのSofanfenibが投与されました。 試験の結果、全生存期間中央値は、プラセボ群が7.9カ月だったのに対して、Sorafenib投与群は10.7カ月と延長されました(ハザード比は0.69、p=0.00058)。つまり死亡リスクを31%低下させ、生存期間を44%延長することがわかりました。また、腫瘍が増殖するまでの期間は、プラセボ群が2.8カ月、Sorafenib投与群は5.5カ月と延長されました(ハザード比が0.58)。つまり腫瘍増殖のリスクを42%低下させ、腫瘍増殖までの期間を73%延長させることがわかりました。奏功率は7例(2%)でした。 以上のことから、Sorafenibが、進行肝細胞癌の患者の生存期間を延長させる有効な薬剤であることがわかりました。
(4)アジア人を対象として第III相試験: ASCO 2009 #4509
アジア人が罹患する肝細胞がんでは、西洋人と違いB型肝炎ウイルス感染者の比率が増加することから、西洋人を対象としたSHARP試験ではなく、アジア人を対象としてNexavarの効果を検討する第III相無作為化比較臨床試験が行われました。 Child Aで化学療法を未施行な手術不能肝細胞がん患者226例を対象に1日800 mgのNexavarの投与とプラセボ投与を比較してNexavarの効果が検討されました。肝細胞がんは、門脈腫瘍栓のような門脈浸潤が34%程度に認められ、肝臓外病変は69%程度に認められました。肺転移は45〜52%に認められ、リンパ節転移が30%強に認められました。B型肝炎ウイルス感染者が70%以上を占めていました。このような患者を対象にして、Nexavar群とプラセボ群を比較すると、全生存期間の中央値は6.5か月と4.2か月(ハザード比0.68、p=0.014)、腫瘍が増悪するまでの生存期間の中央値は2.8か月と1.4か月(ハザード比0.57、p<0.001)となりました。奏功率は3%と1%でした
5. 副作用
(1) 左心不全 Nexavar®を服用した患者で、左心室不全が起こっています。12ヶ月以内に狭心症や心筋梗塞の既往がある方、冠動脈バイパス手術(CABG)を受けた方、慢性心不全のある方は、Nexavar®の服用は慎重にするべきです。服用前と服用中は定期的に心電図、胸部レントゲン検査、心エコー検査を施行する必要があります。
(2) 出血傾向:消化管出血、鼻出血、気道出血、脳出血、など Nexavar®を服用した8から15%の患者でなんらかの出血が起こっています。上部(胃・十二指腸)や下部消化管(直腸・結腸)の出血や創部からの出血に注意する必要があります。潰瘍の既往がある方や歯科治療、外傷などでは出血に注意します。腫瘍からの出血が報告されており、特に肺転移がある方では、腫瘍からの出血のため血痰・喀血を起こし致命的となる場合も考えられます。肺転移のある方では投与を慎重にする必要があります。
(3) 高血圧 17%の患者で、高血圧が報告されています。一方、プラセボ(偽薬)を服用した患者では1.8%で高血圧が認められました。服用開始から最初の6週間では、特に注意して血圧を測定する必要があります。
(4) 消化器症状 吐き気・嘔吐・胃痛・胃もたれ・胸焼け・腹痛・下痢・便秘などが報告されています。また、Amylaseやlipaseの上昇が報告されています。
(5) 皮膚症状 皮膚の乾燥化、皮膚炎、発疹、かゆみ、ひび割れ、水泡化、色素沈着が手掌、上肢、下肢に出現します(手足症候群)。爪周囲炎や口角炎が報告されています。全身の発疹、吹き出物、脱毛、表皮剥離性皮膚炎が報告されています。
(6) 粘膜障害 口内炎、舌炎、味覚障害が報告されています。
(7) 血栓症 下肢静脈血栓症、肺梗塞の報告があります。
(8) 肝機能障害 AST/ALTの上昇、Bilの上昇、ALPの上昇などが報告されています。
(9) 呼吸器症状 呼吸苦や咳が報告されています。間質性肺障害が報告されています。
(10) 腎機能障害 急性腎不全の報告があります。
(11) 血液毒性 白血球減少、リンパ球減少、好中球減少、血小板減少、貧血が報告されています。
(12) 脱毛 著明な脱毛が報告されています。
(13) 一般的副作用 全身倦怠感 食欲不振 無気力感 うつ症状 浮腫 頭痛 関節痛 筋肉痛 腰痛 脱毛 が報告されています。
(14) 採血 肝機能障害(AST/ALTの上昇) 胆道系酵素(ALP,g-GTP, Bil)の上昇 すい臓酵素(AMY, Lip)の上昇 腎機能(Cre,電解質)の異常 骨髄抑制(白血球、血小板の減少) 貧血 PT-INR (ワルファリン服用時は特に)の異常亢進 が報告されています。
(15) 創傷治癒の遅延 VEGFは創傷治癒に関わることから、Nexavar®の投与で創傷治癒が遅延する可能性があります。しかし詳細なデータは現在のところありません。
* 服薬開始時あるいは休薬後の再開時に、全身倦怠・食欲不振・腹部膨満・腹痛・下痢・全身の痛み・頭痛などが1週間程度起こることがあります。医師と相談しながら服薬を行なってください
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